ペルーとチリの間には時差がある。通常はチリの方が１時間早いのだが、今はサマー
タイム適用期のため＋２時間。アルゼンチンからパラグアイへ入った時に続き、ここでも
うっかり時間を勘違いしてしまい、アリカの街で気が付いた時には既に２２時。あわてて
タクシーでバスターミナルまで戻った。タクシーがターミナルに横付けしようとした時、逆
にターミナルから出発してきたタクシーと接触。運転手同士のケンカが始まったが、構っ
てられないので料金Ｃ＄１,０００を渡してターミナル内に急ぐ。アリカ到着時に立ち寄った
ＴＵＲ−ＢＵＳ社のカウンターで聞くと、既に今夜のサンティエゴ行は満席だと言う。隣の
プルマン社も同様。ターミナル内に並ぶ数社のカウンターを聞いて回っていると、１人の
男が「サンティアゴ？」と聞いてきた。私が頷くと、男は両替所の隣にある発券カウンター
へ私を招き入れた。パスポートを渡し、私の名前やパスポート番号をパソコンに打ち込
んで出力されたチケットは、今夜２３時半発のプルマン社のもの。確かさっきプルマン社
のカウンターでは満席だったはずの便だ。ターミナル内の周囲を見回すと、ターミナル内
にはＴＵＲ−ＢＵＳ社の看板を掲げたカウンターが２ヶ所、プルマン社のものも３ヶ所あ
る。これらはバス会社直営のカウンターではなく、それぞれが旅行代理店なのだろうか。
そしてそれぞれがオンラインで繋がっているのではなく、各店にチケットが割り振られて
いるのかもしれない。チケットにはＣ＄１４，０００と書かれ、そこにターミナル使用料と思
われるＣ＄１００と書かれた小さなチケットがホチキス留めされていたが、カウンターの男
は「料金はＣ＄１５，０００だ。」と言う。差額について尋ねると、アレコレ説明してくれたが
良く判らなかった。マージンということかもしれないが、Ｃ＄９００≒１７０円と僅か。何はと
もあれ今夜のバスに乗れるのだから有難い。

　２３時になり、まずは手荷物を預ける。最初にチケットとパスポートの提示を求められ、
全ての乗客分の荷物を中身まで入念にチェックしてゆく。そして乗客は荷物を残して一
旦ターミナルの待合所へ戻される。チリのバス会社は荷物の管理がしっかりしていると
は聞いていたが、自分の荷物がキチンと積み込まれるかどうかを自分の目で確認できな
いのは少し不安だ。

　２３時２５分、改札が始まりバスに乗り込む。セミ・カマクラスと呼ばれる今日のバスは
昨日のオルメーニョ社ロイアルクラスよりは若干ピッチが狭いファブリックシートだが、ま
ぁ高水準。車内はほぼ満席。これがおそらくこの旅最後の長距離バスになるだろう。２３
時４０分、バスが出発すると、乗務員が検札と同時にＩＤやパスポートを回収していった。
もう時間が遅いので（といってもペルーから来た私にとってはまだ２１〜２２時なのだ
が）、程なく車内は消灯となった。

　１１月４日 １時１０分、バスは停車し乗客は全ての手荷物を持って一旦下車。道路脇
の建物で手荷物のＸ線検査を受ける。ただバスのトランクに積み込んだ荷物まではチェ
ックされないようだ。その後バスは走り出すが、朝５時すぎに再度荷物チェック。今度は
Ｘ線検査ではなく、台の上にカバンを並べ、中身をチェックしてゆくというもの。ココでの
チェックが終わって再びバスが走り出すと、乗車時に預けたパスポートが乗務員から返
却される。これ以降サンティアゴ到着までの間に同様の荷物チェックは無かった。ペルー
やボリビアと国境を接するエリアだけに、この辺りはチェックが厳重なのかもしれない。

　６時半になり、徐々に周囲が明るくなってきた。窓から見えるのは岩山と砂漠の薄茶色
の世界。岩山の低い部分にだけ白い霧が掛かっていて、なんだか幻想的な景色だ。７時
になり日の出。８時半にはビスケット＋コーヒー or 紅茶の簡単な朝食が配られる。コー
ヒーは紙コップではなくキチンとマグカップに入って出てきた。そして９時には太平洋に面
したアントファガスタの街に到着した。

　　「車窓から見えた砂漠に描かれた絵」　　「いよいよ太平洋。この向こうに日本が！」

　バスはアントファガスタのプルマン社オフィスに停車。乗客は一旦全員下ろされ、出発
までバスに乗ることはできない。ここでの停車時間は１時間。その間乗務員は車内の清
掃をしたり、車内食の搬入をしたりしている。なおオフィスには売店や有料トイレも設置さ
れていた。

　出発まで時間があるので街歩きスタート。プルマン社のオフィスとＴＵＲ−ＢＵＳ社のオ
フィスに挟まれた緩やかな下り坂を下ってゆく。歴史的な建物が幾つか並ぶ交差点まで
進むと、目の前は太平洋。水辺に下りて、水に手を伸ばしてみる。ブラジル・リオのコパ
ビーチで大西洋に足を浸して以来１３日目。実際水に手を触れてみると、昨夜以上に大
陸横断した事を強く実感。この海の向こうに日本があるのだ。

　今度は歩いて街の中心・コロン広場へ。ヤシの木や花々が多い広場には時計塔が立
ち、広場の周りにはカテドラルなどの建物が並ぶ。今日は天気も良いので、街を歩いて
いるだけでとても心地良い。朝の９時半だというのに、広場のベンチでは多くの人々がく
つろいでいた。この辺りは街の中心らしく、官公庁や銀行も多い。忙しそうにしている人
も多く、この街は予想以上に都会のようだ。そのまま街を少し散策した後、商店でお菓子
やジュースを仕込んでバスまで戻ることにした。

　１０時になりバスは出発。街を抜けると周囲は再び砂漠になった。ここから暫くは、ひた
すら荒涼とした世界。１４時にはチキン＋ライス＋パンがパックされたランチのトレーが
配られる。味も悪くない。

　１５時から３０分間は、途中のＣＨＡＮＡＲＡＬという町に停車。ただ、町と言ってもプルマ
ン社のオフィス以外に商店らしいものも見当たらず、ここでは特に何もしないで出発を待
った。バスが出発すると、車内ではヴィン・ディーゼル出演「ワイルド・スピード」をビデオ
で上映していた。その後１７時になると、徐々に周囲に緑が増え始め、１７時２０分、バス
はコピアポの町に到着。ここはさっきのＣＨＡＮＡＲＡＬに比べると遥かに大きく、地域の
中心都市といった感じ。ただプルマン社のオフィスの周りは事務所や住宅、小さな商店
ばかりで、町を散策するにはちょっと物足りない。相変わらず天気が良く日差しが強いの
だが風は涼しく気持ちよい。しばらく公園のベンチでノンビリ過ごす事にした。

　コピアポの出発時刻は１７時４５分。アリカでこのバスに乗って以来気になっていたの
は、「バス会社に預けた自分の荷物がちゃんと積み込まれているのか。」ということ。こ
れだけキチンとしたバス会社なので「まず大丈夫だ。」とは思っていたのだが、給水作業
中のバスのトランク内に自分の荷物を見つけた時に、ようやく安心することができた。

　出発時刻になり車内に乗り込む。すると私の隣の席のオバサンが戻ってこない。乗務
員達は慌てて周囲を探し回り、ようやくそのオバサン２人組を連れて戻ってきた。どうや
ら彼女達は近くの公園のベンチでずっとオシャベリしていたらしい。ココまで車内でも我
が者顔でオシャベリしていた賑やかな彼女達も、この時ばかりは大人しくしていた。

　結局少し遅れた１８時にバスが動き出すと、車内では今度は「シュレック」を上映。朝と
同様にビスケット＋コーヒー or 紅茶もサーブされる。１９時５０分には名も知らぬ町に立
ち寄るが、ここでは乗降客なし。モニターでは続いてチリの映画「sexo con amor」を上
映。ＴＢＳ系の昔のドラマ「毎度おさわがせします」のような陽気なお色気映画で、ストー
リーが進むにつれ車内も盛り上がっていた。

　やがて外は暗くなり、２２時にはチーズパンとコーラの夜食が配布される。ボリビアから
ペルーにかけての夜行バスでは車内が寒い時もあったが、今回は少し暖房が効きすぎ
ているくらいだ。

　１１月５日 朝５時、目が覚めると窓の外の景色は建物が増え、交通量も多い。５時半
には今回もビスケット＋コーヒー or 紅茶の朝食。しだいに周囲は都会になり、６時２０分
にバスはサンティアゴのサン・ボルハ・バスターミナルに到着。２泊におよぶバスの旅も
ようやく終了だ。