１０月１１日２１時４５分、リスボンのバスターミナル「アルコ・ド・セゴ」にユーロラインズ
のカラーリングをまとった大型バスが入ってきた。これが今夜の夜行バス。行き先はセビ
ーリャ/マラガとなっている。大きな荷物をトランクに預けてバスに乗車。車内も割とキレ
イだ。車掌は「車内に荷物を置くスペースがないので、それほど大きくないディパックやカ
バンもトランクに入れるよう」指示しているが、乗客は皆困惑気味。あれこれモメたあげ
く、結局“なし崩し的”に手荷物を車内に持ち込んだ。ここから乗る乗客は９人。チケット
には座席が指定されているが、みんな各自好きな所に座ってゆく。私も最後列シートの
肘掛を跳ね上げて、横になるスペースを確保した。２２時になりバスは出発。オリエンテ
駅前から２名が加わり、バスはヴァスコ・ダ・ガマ橋を通って広大なテージョ川を渡って行
く。しばらくは快適なハイウェイ・ドライブ。横になっているうちに、いつしか眠りについてし
まった。

　日付が変わって１０月１２日０時４０分、真っ暗な中にポツンと建つドライブイン「ARS」
でトイレ休憩。深夜ながら、ファンタ みかん味（オレンジ laranjaとは違うフレーヴァー
tangarina・１．４５ＥＵＲ）＋ポルトガルらしくカスタードタルト（０．９５ＥＵＲ）で一服。遠くで
は遠雷が不気味に光っていた。２時を回り、ファーロの街は乗降客も無く通過。スペイン
に入り、時計を１時間進めて５時２０分、セビーリャではほとんどの乗客が下車。残りは
奥さんが身重の夫婦と私の３人だけ。ところがバスは少し走って５時３５分、さっきとは別
のバスターミナルに到着し、３人ともバスを下ろされてしまった。車掌が「下りたところと
同じプラットフォームで待つように」と言い残してバスも行ってしまう。まだ暗く誰もいない
バスターミナルに３人だけ。１人じゃなくて良かった。気温は１８℃。吹きっさらしのターミ
ナルでバスを待っていると、一緒にバスを待つ夫婦がリンゴを１つ分けてくれた。しかも
彼らが持っていたミネラルウォーターでリンゴを洗ってから・・・。彼らもこれからモロッコ
へ行くらしい。ここはスペインだが、我々はポルトガルからバスに乗って来た。お礼はグ
ラシアス？オブリガード？　良く判んないので、とりあえず両方言っておくことにした。

　時刻は６時。少しずつ人が集まってはバスに乗って行くようになり、６時２５分、Linesur
社のヘレス/アルヘシラス行バスがやって来た。さっきまでのバスより新しくグレードも高
い。７時になり乗車時間。どうやら席の指定が必要らしく、ここまでのチケットをバス会社
の窓口に持っていくと、シート番号の入った新しいチケットに交換してくれた。トルコでも
同じような乗換を経験したが、オンライン化していないチケットだし非常にアバウトな乗換
なのに、全く違うバス会社のバスに乗ることが出来てしまう。一体どういうシステムになっ
ているのだろうか。

　７時１５分、１３人の乗客を乗せ、バスはまだ暗いセビーリャの街を出発。ようやく明る
くなってきた８時半、バスはヘレスの町で３０分の休憩時間を取る。バスターミナルの目
の前にあったカフェテリアバー「SM」で、コーヒーとドーナツの軽い朝食（１．３EUR）。グ
ラスに入った苦いホットコーヒーに砂糖をたっぷり入れて飲む。店内には朝から酒を飲
みながらテレビのオートレースに熱狂する男たちが多い。さすがはシェリー酒の町　ヘレ
ス・デ・ラ・フロンテーラだ。

　９時、バスは再スタート。アップダウンのある山坂道から平原、地中海沿岸らしく白い建
物ばかりの町など、変化に富んだ車窓が続く。１０時になり、工事中のハイウェイと並走
しているかと思いきや、途中からはそのハイウェイを走る。前方にクレーンなどの港湾施
設が見えてきたら間もなくアルヘシラスの町。バスは橋を渡って港のターミナルビル前に
到着した。

　アルヘシラスからモロッコへの定番ルートはタンジェへの航路だが、今回は対岸にある
スペイン領・セウタまで船で渡り、陸路でモロッコ入りすることにした。港のターミナル内
に入ると、幾つかの船会社のカウンターが軒を連ねている。そのうちの１軒に入り、セウ
タまでの片道乗船券を購入。店頭の看板には大人１名 １７．５５EURと書かれていた
が、それは車と同乗する場合の運賃で、徒歩での乗船は ３８．７EURだと言う。とりあえ
ずチケットを購入してターミナルの２階へ。国内航路なので乗船も至って簡単だ。アルヘ
シラスからの航路は複数の船会社が運行していて、今回はTRASMEDITERRANEA社の
カタマランを利用する。キレイな船内には国内航路にも関わらずデューティーフリーもあ
った。マルボロ １カートン １７．５EUR、ブルガリ・プールオム ５０ml ３５．７５EUR、

カルバンクライン・ＣＫone １００ml ３３．７５EUR・・・。今日は小雨交じりでドンヨリとした
曇り空。ジブラルタルにそびえ立つターリクの岩山も雲に隠れて見えない。ジブラルタル
海峡の幅は狭いところで約１５km。時刻表では３５分の航路だが、この日は５０分の船
旅。このところ良く世話になっているスペイン・ビール Cruzcampo（４．８％・３３０ｍｌ缶・
１．３EUR）をヤリつつ海峡を横断。エジプト以来２３日振りのアフリカ大陸上陸だが、ここ
はまだスペイン。なんだか変な感じだ。

「ﾎﾟﾙﾄｶﾞﾙ 『2003 the fanta collection』　　　　　　　「TRASMEDITERRANEA社

tangarina(ﾐｶﾝ)･manga(ﾏﾝｺﾞ)･frutos exoticos」　　　　　　　　　ALBORAN号 船内」

　セウタの港に着いて、手許の乗船券が往復チケットだったことに気がついた。航空券
のように複写になったチケットが残っていたのだ。アルヘシラスで私は確かに「ワンウェ
イ」と言ったのだが、英語が通じなかったのだろうか。とりあえず船会社に払戻し出来な
いか掛け合ってみることにする。セウタのターミナルにあった EuroFerrys社の窓口で事
情を説明。ところがここでは英語が判る人がおらず、スペイン語の会話本を使って伝え
るのに一苦労。ようやくこちらの意図は伝わったものの、払戻しは難しいと言う。彼らは
「スペインに戻る時に帰りのチケットを使えば良い」と言うが、出来れば行きと帰りは違う
ルートを取りたい。結局３０分は粘っただろう。ようやくチケットを払い戻してくれることに
なり、往復運賃 ３８．７EURから片道運賃 ２１．４５EURを差し引いた １７．２５EURが帰
って来た。有り難い。

　ターミナルビルを出て、セウタの町に向かってゆっくり歩き出す。角に立つ観光案内所
は日曜のため閉まっている。そのままサン・フェリペ堀近くのバス停で国境行きのバスを
待つ。話しかけてきた男によると、L７番の路線バスが国境まで行くらしい。ここの通りは
車どおりが多く、いろんなルートのバスも頻繁に通る。１０分程待つと、お目当てのL7番
バスがやって来た。バスに乗り込み運転手に「フロンテーラ（国境）」と告げる。運賃は
０．６EUR。バスは約１０分で国境ゲート前に到着した。

　前を行く人達を追って、道路の右側にある歩行者用通路を進む。ゲートの手前で係官
に呼び止められパスポートを提示すると、そこから左側のゲートに進むように指示され
る。前を行く人達は右のゲートに進む。右側はモロッコ人用ゲートだろうか？

　建物に差し掛かり、左側にある最初の窓口に人だかりが出来ていた。そこの列に並ぶ
と、前に並んでいた白人女性がユーロフェリー社の名前が印刷された出入国カードを１
枚分けてくれた。記入項目は「氏名・生年月日・出生地・国籍・何処から来たか・パスポ
ートNo.・発行地・発行日・何処へ行くか」と一般的な内容。記入が終わりしばらく待つと、
窓口の男が並んでいる人々に声を掛け、皆カードを挟んだパスポートを提出していく。私
も一緒に提出。同時に７〜８人分位まとめて受付するようだ。それから暫く待つ。ここで
一つの不安がよぎった。これから入国するモロッコはイスラムの国。私のパスポートには
イスラエルの出入国スタンプが押されているが、問題ないだろうか？しかしそんな心配を
よそに、何の質問も無くパスポートが帰って来た。時差のため２時間（サマータイム時）
時計を戻して１２時１０分、モロッコ入国だ。並びにある両替所 banque populaireで ２０
EURを ２１３モロッコ・ディルハム（以下DHと表記。１EUR＝１０．６９５DH）に両替。その
まま歩いて進むと、未舗装の広い駐車場に水色のベンツのタクシーがズラリと並んでい
た。声を掛けてきた運転手に「タンジェへ行きたい。」と言うと、「５００DHだ。」と答える。
あまりの値段に私が大笑いしていると、彼は「ここからダイレクトには行けないから、まず
２０DHでここからタクシーに乗り、途中で乗り換えてさらに２０DHだ。」と言う。私は彼の
提案に乗ることにした。ここから乗るのはグランタクシーと呼ばれる乗り合いタクシー。既
に助手席に１人の女性と、後部座席に１人の男性が乗っている。私が加わって、あと１
人待ち。しばらくすると若いカップルが現れ、結局後ろに４人が乗って、１２時４５分にタ
クシーは出発した。

　「ｱﾌﾘｶ大陸にあるｽﾍﾟｲﾝの町・ｾｳﾀ。」　　　　　　「ｾｳﾀからﾓﾛｯｺへの国境ｹﾞｰﾄ」

　快調にタクシーは走るが、ここでまた一抹の不安がよぎる。私の目指すタンジェはセウ
タより西に位置し、本来なら海を右手に見ながら目指すことになるはず。ところが現在タ
クシーは海を左手に快走中。最初に現れた町にも停車せず、一向にスピードを落とす気
配は無い。海に面したリゾートホテルの建つエリアも通り過ぎ、１３時１５分、ようやく一つ
の町にタクシーは入り、乗客は１人ずつ下りてゆく。いよいよ私が最後の客になり、運転
手は路上でタクシーを停める。彼は「この先にターミナルがあるから。」と指差し、タクシ
ーも走り去った。一体自分が何処にいるのか判らないまま、私は彼が指差した方向へ歩
いて行く。その先にはひと際混雑した建物があり、どうやらバスターミナルのようだった。
ターミナルに入ると、一人の男が「何処へ行きたいのか？」と聞いてきた。私は咄嗟に頭
に浮かんだ古都・メクネスの名を告げると、男は「ついて来い。」と私の荷物を持ってター
ミナルの２階へ上がって行った。混雑したターミナル内はアラビア語だらけ。なかなか状
況が把握しづらい中、どうやらここはティトゥアンの町だということが判った。男に連れら
れて行った窓口で、バスのチケット ５９DHを購入。バスは１４時発だそうだ。

　その男に連れられ今度は１階のバス乗り場へ。ホコリっぽいプラットフォームでしばらく
待つと、１台のバスが入ってきた。男はアディダスのTシャツを着た若い男に何か話して
いる。その男はバスの乗務員らしく、彼に「私をメクネスまで連れて行くよう」説明してくれ
ているようだ。２０DHの荷物代を払って荷物をトランクに預ける。ここまで案内してくれた
男が謝礼を要求するので１０DHを支払い、バスに乗車。車内は壮絶な席取合戦が繰り
広げられていて、私も何とか席を確保できた。座席の指定など行わないこのバスでは座
席数以上の乗客が乗車。通路に座る客・立ったままの客も多く、大混雑だ。

　１４時１０分、バスは出発。山腹近くまで白い建物が立ち並んだティトゥアンの町を抜
け、バスは山道に入ってゆく。私が外の景色ばかり気にしていたら、隣の席の男が窓側
の席と替わってくれた。彼は学校の教師で、途中のウェザーンに住んでいるらしい。

　バスは山間の田舎道を進む。集落ごとに人の乗り降りが激しく頻繁に停車する。周囲
の景色は「私が抱くアフリカ大陸のイメージ」とはウラハラに、意外と緑が豊かだ。

　１６時５０分、内陸の町・ウェザーンで隣の男が下車。バスが着くと、多くの人々がバス
に群がり、トランクから多くの物資を下ろしていく。バスは貨物輸送の役割も担っており、
トランクには想像以上に多くの貨物が積み込まれていたのだ。また出発を待つ間、車内
には多くの物売りも乗り込んできて、ただでさえ混雑した車内は人でごった返している。
ようやくバスが動き出すと、車内の物売り達は通路の乗客をかき分け、下車するのも一
苦労だ。１７時４５分から１８時１５分まで、バスは途中の集落で休憩タイム。道路脇では
肉を焼く屋台も出ているが、手持DHが少ない私はメクネスに着くまで食事もお預け。そ
の後辺りが真っ暗になってもバスはなかなか辿り着かない。結局想像以上に時間が掛
かり、ティトゥアンを出てから６時間後の２０時に、バスはメクネスに到着した。

　乗って来たバスはメクネスが終点では無いらしく（フェズ行か？）、途中の路上でバスを
下ろされた。またしても自分のいる場所が判らない。バスを下りる少し前に見えた「国鉄
駅の方向を示す標識」まで歩いて戻る。標識に従って緩い坂道を登っていくと、徐々に商
店が増えてきた。どうやらメクネスの街で間違いないようだ。途中の銀行で５００DHを調
達し、今夜はアミール・アブデルカデル駅に近いホテル・マジェスティックに宿泊。やや古
いがコロニアルな造りで、シャワー・トイレ共同のツインルームが １３６DH（約１,７２０円）
だ。ここのホテルのフロントもそうだが、モロッコでは外国人に対してフランス語で話しか
けてくることがほとんど。ここはアラビア語が公用語だが、アラビア語で話しかけられるこ
とは皆無だった。

　そしてようやく夕食。ホテル近くの「ロティスリー・サナエ」で、店頭でグリルされたロース
トチキン １/４羽 ２０DHをオーダー。ここにはアルコールを置いていないので、モロッコで
はポピュラーなジュース「HAWAI TROPICAL」（HAWAII じゃなくて HAWAI） ５DHでガマ
ン、ガマン・・・。

　　　「ﾃｨﾄｩｱﾝ-ﾒｸﾈｽ間の車窓から。」　　　　　「今夜の夕食　総額 ２５DH（約３２０円）」