１０月８日朝９時１５分、ホテルをチェックアウトして、駅の北隣にあるバスターミナルへ
行く。ここからレ・クーリエ・ブルトン社のバスに乗って、世界遺産にも登録されている「モ
ン・サン・ミッシェル」に向かった。このバスは１日に４便程度しか無い。運賃１１.２ＥＵＲ
は、鉄道パスやＴＧＶの切符があればタダになる。どういう訳だか今回も車内は日本人
や中国人ばかりだ。バスがレンヌの街を抜け、モン・サン・ミッシェルに近いポントルソン
の町を過ぎしばらくすると、バスの運転手が「前方に見えます。」と車内放送。私が陣取
っていた最前列の席からは、フロントガラス越しに霞む尖塔が見えてきた。放牧されてい
る羊達を眺めながら、やがてバスは砂州の上を進み、砂上に浮かぶモン・サン・ミッシェ
ルの真下に到着した。

　バスを降りた乗客達は修道院に向かう坂道を登っていくが、私はここで少し早いランチ
を採ることにした。坂の上り口にはモン・サン・ミッシェルの名物ともいえる巨大オムレツ
の店「ラ・メール・プーラール」がある。昼時になると混雑するというので、先にトライしてし
まおうという作戦だ。ただ、まだ誰一人として客がいない店で従業員に聞くと、１１時半開
店とのこと。とりあえず開店まで周囲を散策することにした。さっきバスで通ってきた道を
歩いて戻り、少し離れた所から振り返ると、モン・サン・ミッシェルの威容な全景を眺める
ことができる。ここも是非訪れたかった場所の一つなので、しばらく感慨にふける。小雨
混じりのドンヨリとした空も、ココには似合うような気がした。

　改めてレストランに戻り開店を待つ。すると私の数人あとに、大きなカメラを持った１人
のアジア人女性も開店を待っていた。身なりからして、おそらく日本人だろう。私自身ち
ゃんとしたレストランで１人で食事するのは少し居心地が悪いと思ったので、彼女に一緒
に食事をしようと誘ってみたところ、こころよく付き合ってくれた。彼女はニースとパリを
旅しているそうだ。それにしても最近は男性よりも女性の方が一眼レフのカメラを持って
いる人が多いように思う。

　店が開店し、席に着く。メニューを見ると思っていたより値段が高い。オムレツだと思っ
て甘く見ていたが、何と言っても世界的観光地の名物料理である。仕方あるまい。そこで
私は「オムレツと特別料理のコース　FORMULE SPECIALITES（３９ＥＵＲ）」をチョイス。
また「お酒はあまり飲まない。」という同席してくれた彼女にも付き合ってもらい、白のハ
ウスワイン（ハーフボトル・２１ＥＵＲ）もオーダーした。久しぶりの日本語による会話を楽
しんでいると、まず最初にパンに続いてカレー産の生ガキ（９ケ）が登場。大粒の立派な
カキを堪能したら、いよいよ直径３０�pほどの巨大オムレツが現れた。ただこのタイミン
グでは見せてくれるだけで一旦オムレツは下げられ、実際にはその半分が１人分として
サーブされる。彼女はマッシュルーム入りのオムレツだが、私の物はプレーン。オムレツ
というよりも、フワフワのパンケーキといった感じ。私のコースには、その他にスモークサ
ーモンが付いてきた。

　ゆっくり食事をしていたら、時間はもうすぐ１３時。食事に付き合ってくれた彼女は１６時
４５分のバスで帰るそうなのだが、私は今夜の夜行列車の都合で１４時のバスで帰らな
ければならない。店の前で彼女と別れ、私は修道院への坂道を急ぎ足で登っていく。修
道院の入口には行列が出来ていたが、ほとんどが団体客のようで、個人客用のチケット
売り場には列が無く、幸いスンナリと中に入ることができた。入場料は７ＥＵＲ。修道院は
永い年月を掛けて建て増しされたこともあり、内部が複雑な構造になっている。外観の
みならず、内部も要塞のようだ。最上階に上がり、修道院が建て増しされていく様子を示
した模型が置かれた部屋を抜けると、周囲が一望できるテラスに出る。修道院の建つ島
の周りは砂に覆われた潟になっているのだが、最近ではこの堆積してしまった砂が問題
になっている。修道院と陸地を結ぶ堤防を造ったことにより砂が堆積して、周囲の環境
が変わってきているというのだ。将来的には堤防を撤去するという話も出てきているらし
い。

　しばらく景色を眺めていると、大勢の日本人観光客が押し寄せてきたので逃げるように
礼拝堂の中へ進む。賑やかなテラスとは打って変わって礼拝堂の中は非常に静か。ここ
から館内の階段を迷路のように下ってゆく。コースが曲がりくねっているため自分がどち
らの方向を向いているのかも良く判らなくなる。気が付けば入口のチケット売り場の前に
出た時には少し驚いた。帰りのバスの時間が近いので、ここから急いでバス乗り場まで
戻ることにする。

　　「長さ1.5m位の柄がついたﾌﾗｲﾊﾟﾝで　　　　「堤防の両脇には羊が放牧されている。

　　　　　　　　　　巨大ｵﾑﾚﾂを焼く。」　　　　　　　　　　　　　　羊に注意の道路標識も。」

　１４時のバスでモン・サン・ミッシェルからレンヌの街へ。パリ行のＴＧＶの予約（３ＥＵＲ）
を済ませ、ホテルに戻り荷物をピックアップ。ホテルから駅まではそれほど遠くないが、
帰りは地下鉄に乗ってみた。僅か１駅で、運賃は１ＥＵＲ。真新しくキレイな地下鉄の駅
はエレベーターも完備されたバリアフリー構造だ。

　レンヌからはＴＧＶでパリ・モンパルナス駅へ戻る。今夜の夜行列車までは２時間以上
ある。そこでモンパルナスから、夜行列車の出るオーステルリッツ駅まで歩いて行くこと
にした。モンパルナスからオーステルリッツまでは３〜４ｋｍ。今回の旅の中で、パリでの
列車乗換は既に３度目だが、過去２回はいずれも駅舎と地下鉄から外に出ていない。３
度目にして、ようやくパリの街歩きだ。モンパルナス・タワーの周囲に広がる界隈にはオ
ープンテラスを持つオシャレな店が多い。この辺りを訪れるのは９年振りだ。モンパルナ
ス墓地の脇を抜け、東へと歩いて行く。パリの雰囲気を楽しみながら１時間が経過し、よ
うやくオーステルリッツ駅に到着。ここからはスペインとの国境に近いラトゥール・ド・カロ
ル行の夜行列車を利用する。私の乗る１等クシェットは１室４人。比較的新しい車両で、
各席に耳栓やウェットティシューの入った「アメニティ・キット」とミネラルウォーターが用意
されていた。クシェット利用の追加代金は１７．５ＥＵＲ。ちょうど５割くらいの乗車率で、
定刻どおりにオーステルリッツ駅を出発した。